第1回 べんじょ☆アブ
キーは投射性と耐久性
渋谷直人=解説ドライフライで魚が釣れない時、釣り人の心には迷いが生じるもの。気になることの一つは、やはりフライがマッチしているのかどうか……。シーズンを通じて渋谷直人さんが信頼を置いて結ぶパターンを、それができるまでのエピソードを全9回でお届け。
この記事は2016年12月号に掲載されたものを再編集しています。
《Profile》
渋谷 直人(しぶや・なおと)
1971年生まれ。秋田県湯沢市在住。地元の伝統工芸である漆塗りの職人として生活しながら、自ら作り上げたバンブーロッドでヤマメを追い求めている。
●公式ホームページ www.kawatsura.com/
渋谷 直人(しぶや・なおと)
1971年生まれ。秋田県湯沢市在住。地元の伝統工芸である漆塗りの職人として生活しながら、自ら作り上げたバンブーロッドでヤマメを追い求めている。
●公式ホームページ www.kawatsura.com/
九州で生まれた名作
このフライはもともと、熊本の富田晃弘さんが使っていたハチフライを真似て作ったパターンである。春の川辺川で一緒に釣りをしていた際、僕がピーコックパラシュートをさんざん流したポイントで、富田さんが数投で9寸ヤマメを釣ったことがあった。その時「これは釣れるフライだな」と確信したのである。東北に彼が遠征してきた時にもよく釣れていたし、場所やシーズンを問わずに活躍してくれる”虫っぽい”フライの代表格になりそうな期待感が膨らんだ。それが後に、進化系の『マークⅡ』を自分なりのアレンジで作るきっかけになった。
僕の場合、フライを作るにあたっては、まずは魚が食ってきてくれる要素を抽出することから考えている。魚から見てどのようなシルエットがエサだと感じるのかをイメージしたうえで、長いティペットでも回転せずに投げることができるよう、空気抵抗を抑える構造に組み立て直す。
富田さんが作ったハチのフライを、ほぼ完全にコピーした『べんじょ☆アブ』。フォーム材は1回巻くごとにスレッドで補強しているが、魚の歯が当たると壊れることがある。耐久性はそれほどよくないが、いわゆる虫っぽさは抜群だと思う。また、エアロドライウィングをCDCナチュラルで挟んでいるのも特徴。巻きやすく大量生産は可能だが、ストーク(芯)があるのが空気抵抗になり、回転しやすい
だが今回の富田さんのフライは、最初からほぼ完成された形になっていた。基本はパラシュートパターンで、パーツの入れ替えくらいしか改良の余地はないと感じた。1本いただいて観察してみると、ボディーはブラックのフォーム材で、ソラックス部分はシールズファー・ブラック。ポストはナチュラルCDCのなかにエアロドライウィングが仕込まれていた。
ハックルはスペックルドバジャーで、存在感は薄い。そこに濃いめのブラウンのコックハックル・ティップがウイングで付いていた。どうやらこのウイングが”虫っぽさ”を生んでいるのは、間違いなさそうだった。
改良したい部分を抽出していく
一言でいえば、これはスペントウイング付きのテレストリアルパラシュートなのである。問題点を見逃さないフライをじっくり観察した僕は、まずフライのキモになる要素を抽出し、ボディーをピーコックハールに変えた。ソラックスはラビットファー・ブラックに変え、ウイングもクリーのコックハックル・ティップにした。さらに見えやすいように、ウイングは白のCDCファイバーのみにして、空気抵抗を減らすようにした。これによって投げやすさと視認性を確保したわけだ。これが今も活躍してくれる、『マークⅡ』である。
ちなみにウイングはヘンハックルを使うと、さらにその存在感が増した。実際に完成させてみて、これは確実に釣れるフライだと思った。結果はそのとおりで、魚はよく出るし、投げやすいし、不便はほぼ感じない。
『マークⅡ』の初期タイプ。ウイングはブラウン系の色が、ハチやアブっぽいと感じていたので、この色にした。見映えがいいようにクリーのハックルティップを使っている。CDCはファイバーのみで、ボディーはピーコックハール。ソラックスはラビットファー
問題点を挙げるなら、ポストのCDCの量がコストを上げてしまう点だろうか。あと白のCDCは、魚に警戒心を与えてしまうことがあるようだ。見切られた場合、フライを交換するなど次の一手を要求されるケースが出てくる。さらにピーコックのボディー素材も、人の多い釣り場では、魚が嫌うような気がした。
『マークⅡ』は充分な効果もあったし釣れるのだが、作るのに時間とコストが掛かる。それを解消しようと富田さんのオリジナルをほぼコピーしてみようと思い、『べんじょ☆アブ』を作ってみた。
だがこれはこれで、自分のシステムではCDCの芯が残っているせいか回転してしまう。しかも、エアロドライウィング部分は何度も使うとクシュクシュになり、どうもぐあいが悪い。さらにボディー材のフォームは数多く釣るとバサバサになってしまい、手間が掛かるフライのわりに耐久性に問題があった。
ウイング材をきれいに仕上げるためには、インドコックネックの短くて広い部分を厳選する必要がある。これは本数があまり取れないので、すぐにフライが壊れてしまってはもったいない。そのため、どうにかして耐久性を上げたいと考えた。
ウイングをヘンハックルティップに変えた『マークⅡ』。ウイングの存在感があり、濡れてもあまりしぼまない。この『マークⅡ』2パターンは、どちらも回転しにくく、よく釣れるし、耐久性に優れると思う。ただ白のCDCは存在感があり、魚に警戒されやすいような気も……
耐久性を上げるために
そのぐあいが悪かった部分をそれぞれ工夫して改善したのが、現在最も使用頻度の高い『シン・べんじょ☆アブ』である。ボディーのフォーム材は上からスレッドをぐるぐる巻きにして補強し、よほどのことがない限り壊れないようにした。ポストはナチュラルホワイトCDC2枚を、スポッテッドダンのCDC2枚で挟み込み、小さいものを芯ごと使って手間を掛けないようにした。ホワイトを少し長めにして、スポッテッドダンを短めに付けると、視認性とナチュラル感を両立できる。
こちらが『シン・べんじょ☆アブ』。ボディーはスレッドで補強していて耐久性は高く、コックハックルのウイングはシルエットもはっきりしている。ポストは小さいCDCの先端を使うので、芯はそれほど硬くなく、回転しにくい
シン・べんじょ☆アブ
●フック……TMC212TR(もしくはTMC212Y) #9~17
●スレッド……8/0ブラックなど
●ポスト……CDCフェザー4枚(ナチュラル2枚をスポッテッドダン2枚で挟み込む)
●アブドメン……フォーム材の上からスレッドで補強
●ウイング……インドネック・ブラック
●ソラックス……シールズファー・ブラックなど
●ハックル……コックネック・グリズリーなど
回転する場合は、現場でクリッパーを使い芯だけカットするとよい。ソラックス部分は、やはり多少ダビングのしにくさはあるが、シールズファーのほうがよいと感じた。繊維が太く、そのファジーなボサボサが、虫の足っぽいシルエットを演出してくれる。
肝心のスペントウイングは、インドネックのブラックを使うことにより、さらにシルエットがしっかりした気がする。ピーコックボディーの『マークⅡ』もたまに使うし釣れるのだが、なんとなく『シン・べんじょ☆アブ』の使用率が高くなっている。
このフライは、なんといってもいろいろな虫に見えるのが特徴だと思う。ハエやアブ、ハチ、フライングアントに至るまで、黒いボディーに羽が付いたイメージの虫は多く、それらの多くをイミテートできる。ちなみに、サイズは#9〜17。フックは『TMC 212TR』を使用しているが、『TMC 212Y』でも問題ないと思う。
富田さんが作ったフライを真似て作った『べんじょ☆アブ』でヒットした。同じくらいのサイズのフライングアントが、ストマックから出てきた。おそらくこれをメインに食べていたので、このフライに出てくれたのではないかと思う
2018/2/16